2014年1月20日(月)№109 『  美穂さん 』

 

同じ地名というのは、日本の各地にある。

 

いや、世界各地とも言えるようだ。他住民族が暮らす「カナダ」にも「ロンドン」がある、ということも、カナダ合同教会の方たちとの交流のある道北で、わたしは遅ればせながら知るようになった。イギリスからの移民があったという歴史だろう。

 

わたしは、かつて、新潟県上越市の「高田」という歴史ある城下町の教会に仕えたが、他府県の人からすると、そこは、「上越高田」ということになる。

 

かつて、福島の喜多方で頑張っていた神学校の同級生との会話から、福島で高田と言えば、「会津高田」なのだと教えられた。そうだ、わたしの故郷・九州の大分にも「豊後高田」がある。他にも、岩手県の「陸前高田」もあるし、広島県には「安芸高田」もあるはず。

 

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「清里」というと、東京で暮らして居たときは、山梨県の清里高原のことを思った。東京・銀座教会の夏の修養会は、わたしが会員としてお世話になっていた頃は、清里に行くのが定番だったと思う。青山学院関連の施設だったのか、30年近くも経つと、もはや、ちと怪しい記憶だ。

 

牧師館でラジオを流していると、時々、見知らぬ町の名前が出てくるが、だいぶ前に、北海道にも「清里町」があることを知った。オホーツクの斜里郡にある町だという。人口4千人程のちいさな町のようだ。

 

実は、新潟県上越市にも「清里」がある。

 

きょうはその清里で出会った【美穂さん】を巡るお話だ。


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今は清里区となっているが、2005年の平成の市町村大合併で上越市に編入されるまでは、清里村だったはず。

 

わたしが高田教会に仕えていた頃、そこにご子息ご夫妻と共に暮らして居た【美穂さん】を定期的に訪ねていた。

 

ある日のこと。【美穂さん】宅のひろいお庭で立ち話をしていた。後で妻に教えられたのだが、【美穂さん】とわたしの話は、ごく普通におしゃべりしていただけなのに、大きくこだまして響き、車の中で待っていた妻に丸聞こえだったという。

 

山がすぐ近くにあるわけではない。というか、遥か遠くなのに・・・・・声がこだまする。あまり記憶にない経験だ。

 

清里はそれ程空気が澄み、我々の会話をさえぎるものが何もない、美しい地なのだ。内緒話に注意だ(笑)。

 

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先週、美穂さんのご長男のM男さんと奥さまのS子さんからお便りがあった。クリスマスのカードが使われていて、妙に嬉しかった。

 

冒頭にはこうある。

 

【母が昨年の一月七日に召天してから一年になります】と。

 

90歳で宇都宮の教会からの転入会式を迎えたときに、清里のお宅から、赤・白・黄色のチューリップを教会に持って来てくださった美穂さん。


だいぶお耳が遠くなっていた美穂さんに、わたしは大声でこう尋ねした。

 

「美穂さーん、会員になってくださいますかーー!」


「はい、お願いします」


そう、ひと言お応えになったと記録している。

 

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美穂さんとわたしが共に過ごしたのは決して長い時間ではない。

 

が、カメラのフィルムに焼き付くように、脳裏に焼き付いている場面が幾つかある。

ある土曜日の午後。田園地帯の中にある清里のお宅に伺うと、その日、美穂さんはお一人で居られた。

 

リビングルームの一番奥の座り心地のよい食卓に二人して座り込み、楽しくも、しかし少しぎこちないお話をするうちに、何かの拍子に美穂さんは、わたしにこう話し掛けられた。

 

「先生、わたしも(礼拝の時の子ども祝福のように)頭に手を置いて祝福してください」

と。

 

美穂さんは冗談でそう言われたのではない。ごく普通に、真面目に、心の底から、いつもの美穂さんらしく淡々とそう口にされた。

 

美穂さんは、それを求めて居られたのだ。90歳にしてだ。

 

わたしはその時、手を置いて祈ったのかどうか、忘れてしまった。シマッタなぁ、の記憶はないので大丈夫だと思うが・・・。

 

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こんなことも忘れられない。

 

ご子息のお嫁さんS子さんがそっと差し出してくださったものだったかも知れない。

古いふるいアルバムに収められていたのは、美穂さんのご出身地、秋田での美穂さんの結婚式の着物姿の写真だった。

 

それはそれは美人さんで、秋田美人とはこの人のこと、と確信した。

 

白黒で記録された写真は、少しも色褪せておらず、さらに鮮やかにわたしの心にmonoーchromeで記憶に残っていて、今も変わらずに美しい。

 

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ご長男のM男さん。お母さまが天に召される少し前から、礼拝に出席するようになったことを、風の便りにお聴きしていた。

 

クリスマスのキャロリングでお邪魔した時などには、お話を伺うこともあったM男さん。この度の遅れて届いたクリスマスカードに、お母さまを天に送られて一年が過ぎての思いを綴ってくださっていた。

 

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【子どもがiPadを買ってくれたので、今日、先生のブログで先週の説教をお聞きしました。先生の話はイメージがあり、ああ、そういうことかなのかと思いました。母が亡くなってから子供の頃の母とのことを思い出します。・・・・先週の説教はわたしの心にとどきました】

と。

 

奥さまのS子さんもひと言添えてくださった。

【今日初めて、先生の説教を聞かせて頂き、まるでその場で伺っているような迫力でびっくりしました】

 

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その後、わたしはこのカードを幾度も読み直し、M男さんに電話を入れてみた。お二人が聴かれた説教は1月12日の『想起しよう我らの神を』のことだと知った。

 

電話では、ご結婚間もない頃に奥さまと共に利尻、礼文を巡るいわゆる貧乏旅行をされたこと。そして、稚内駅付近では、見たこともない程おおきな毛がにを買って、2時間程(宗谷本線・国鉄)列車の中でかぶりついたことなど、懐かしそうにお話しされていた。

 

録音されていた説教をお聴き頂き、お役に立てたことは素直に嬉しい。特に、「イメージがあり」というのは、そこに映像が思い浮かぶということだろう。

 

わたしが説教をする時の理想のひとつが、目の前の人物が動きだし、情景が思い浮かぶこと。だから、よかったなぁ、としみじみ思う。

 

そして何より、み言葉が心に届く“時”が来ていることに心から感謝だ。

 

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礼拝が、教会が、お母さまと結び付く幸せ。お母さまと出会い直せる礼拝でもあるのだろう。いいじゃないか。

 

今、上越の清里からは遠く離れ、稚内に居てもお役に立てて幸せだ。 

 

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雪に濡れたのだろうか。届いたカードはだいぶしおれていた。

 

清里の雪か、稚内の雪か。

 

イエスの言葉を憶う。


【はっきり言っておく。一粒の麦は、地に落ちて死ななければ、一粒のままである。だが、死ねば、多くの実を結ぶ。】(ヨハネによる福音書12:24)

 

神こそが全ての時をご存知のお方。死は新しい命を生み、慰めの風が吹き、水が注がれて育って行く。

 

美穂さん、よかったね。そして、あらためて伝えたい。

 

美穂さん、ありがとうございました、と。end

 

 

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